鈴木清へのご意見書き込み帳

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なんか、私のブログ(愚痴の書き込み場所)みたいになってしまっていますが、(^^;)

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分離工学 - 鈴木

2018/10/05 (Fri) 04:04:04

物質・生命化学科3年生対象、後期の科目についてのご質問などをどうぞ。

定常状態の定義 - 鈴木

2021/10/01 (Fri) 11:36:25

(2025年7月9日に意味が変わらない範囲で若干変更しました。)

結論から書くと、
定常状態とは、
扱っている(注目している)変数が時間が経過しても一定である(変化しない)
ということです。

変数として何を扱うか、何に注目するかによって、個々の事例での具体的な定義は異なります。

化学工学、特にその中の分離工学で扱う変数として、最も重要なのは、系内の各部における、物質量(モル数)です。

したがって、系内の物質量のみに注目するのなら、それが時間的に変化しないことが定常状態の条件です。流入量が時間的に変化していても、定常状態となり得ます。

ただし、系への流入量にも着目している場合、流入量が時間ともに変化していれば、それは定常状態ではありません。非定常状態です。

一般的に、連続操作を取り扱う場合、系の中の各成分の物質量(や濃度)のみならず、流入量や流出量は重要な注目すべき変数です。したがって、連続操作を取り扱う場合、系の中の各成分の物質量に加えて、流入量や流出量も、時間経過によらず一定であることが、定常状態を満足するための必要条件になります。

私は、今まで、定常状態の定義は次のようだと考えていました。すなわち、ある系について、次の二つを満たすことだと考えていました。

1)その系の内部のいずれの(巨視的な)部分においても、その部分に存在する任意の成分の物質量(モル数)が時間が経過しても一定であり(変わらず)、

2)また、系に流入、流出する各成分の流量(単位時間あたりの流量)が時間が経過しても一定である(変わらない)ことです。

しかし、本日、授業を受けてくれた学生さんの一人に定常状態の意味を質問したら、一人の学生さんが次のように答えてくれました。

「(定常状態の定義は)蓄積量が0であることです。」

そこで、私は授業中に

「定常状態の定義は、時間が経過しても状態が同じ、すなわち変わらないことです。」

と伝えました。

改めて教科書:
現代化学工学、橋本健治・荻野文丸編、産業図書、2001年初版
を読み直してみると、
以下の「」内が書かれていました。



(系内での蓄積量)=(流入量)─(流出量)─(生成量)─(消滅量) (1.23)

(系内での蓄積速度)=(流入速度)─(流出速度)─(生成速度)─(消滅速度) (1.24)

系内の成分jの物質量をnj(単位は例えばmol)、時間をt(単位は例えばs)、系への成分jの流入速度(単位は例えばmol/s)をFj,1、系への成分jの流出速度(単位は例えばmol/s)をFj,2、系内での成分jの反応による生成速度(単位は例えばmol/s)をGjと記して、

dnj/dt =Fj,1 ─ Fj,2 + Gj (1.25a)



などと記されていて、その下に、以下の「」内が記されています。

「b. 定常状態が成立するときの物質収支式

 連続操作において,系内のどの位置においても全質量と組成が時間的に変化しない場合は式(1.23)〜(1.27a)の左辺を0と置くことができる。このような状態は定常状態と呼ばれる.」

確かに、教科書では「蓄積量が0である状態を定常状態と定義している」ように読めます。

そこで、英語版のWikipediaを見てみました。
以下です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Steady_state#Chemical_engineering

2021年10月1日11時19分時点ですが、引用を以下の「」の中に記します。



Chemical engineering
Main articles: Steady state (chemistry) and Steady state (biochemistry)

In chemistry, thermodynamics, and other chemical engineering, a steady state is a situation in which all state variables are constant in spite of ongoing processes that strive to change them. For an entire system to be at steady state, i.e. for all state variables of a system to be constant, there must be a flow through the system (compare mass balance). One of the simplest examples of such a system is the case of a bathtub with the tap open but without the bottom plug:[dubious – discuss] after a certain time the water flows in and out at the same rate, so the water level (the state variable being Volume) stabilizes and the system is at steady state. Of course the Volume stabilizing inside the tub depends on the size of the tub, the diameter of the exit hole and the flowrate of water in. Since the tub can overflow, eventually a steady state can be reached where the water flowing in equals the overflow plus the water out through the drain.

A steady state flow process requires conditions at all points in an apparatus remain constant as time changes. There must be no accumulation of mass or energy over the time period of interest. The same mass flow rate will remain constant in the flow path through each element of the system.[2] Thermodynamic properties may vary from point to point, but will remain unchanged at any given point.[3]



化学工学の分野では、流れ(flow)のプロセス(process)も扱いますが、最後の段落に明記されているように、考えている装置(=系=system)の各部分を通る、流れに沿った、(場所によらず)同一の質量流量(速度、単位時間あたりの流量)は時間によらず一定にとどまるだろう(will remain)と記されています。mustではなく、willです。ということは、定常状態であっても流量は一定ではない場合もあるのでしょうか。

同じ段落の冒頭には、
定常流れ(プロセスprocess)では、装置内の全ての点においてconditionsが時間経過しても一定に保たれることが必要である、と記されています。

「state variables」や「conditions」に流量が含まれるのか否かが重要です。

浴槽の例が挙げられています。
たとえば、端的に問題を記すと、
体積が一定の反応器(系)に、非圧縮性流体(たとえば、密度が一定の水)が流入して、反応器内はその非圧縮性流体で完全に満ちていて、同時に非圧縮流体が反応器から流出している状況で、流入(したがって流出も)する流量が時間によって変化する場合に、その系が定常状態なのか、定常状態ではないのか、ということです。

私は、定常状態ではないとみなしていました。流量も含めて変数として扱っているからです。
注目しているのが、系内の水の量だけなのなら、定常状態です。
系に流入する水の流量にも注目するのなら、定常状態ではありません。

もう少し問題を深く検討します。

state variable
を英語版のwikipediaで調べると、以下があります。
https://en.wikipedia.org/wiki/State_variable

2021年10月1日11時49分時点ですが、引用を以下の「」の中に記します。



A state variable is one of the set of variables that are used to describe the mathematical "state"of a dynamical system. Intuitively, the state of a system describes enough about the system to determine its future behaviour in the absence of any external forces affecting the system. Models that consist of coupled first-order differential equations are said to be in state-variable form.[1]

Examples

In mechanical systems, the position coordinates and velocities of mechanical parts are typical state variables; knowing these, it is possible to determine the future state of the objects in the system.
In thermodynamics, a state variable is an independent variable of a state function like internal energy, enthalpy, and entropy. Examples include temperature, pressure, and volume. Heat and work are not state functions, but process functions.
In electronic/electrical circuits, the voltages of the nodes and the currents through components in the circuit are usually the state variables. In any electrical circuit, the number of state variables are equal to the number of storage elements, which are inductors and capacitors. The state variable for an inductor is the current through the inductor, while that for a capacitor is the voltage across the capacitor.
In ecosystem models, population sizes (or concentrations) of plants, animals and resources (nutrients, organic material) are typical state variables.



mechanical systemsには、velocities(速度)が入っているので、流入量が関係しそうですが、厳密にはmechanical(systems)は化学工学とは一致しません。
化学工学はむしろthermodynamics(熱力学)に近いと思われますが、そこには、内部エネルギーが含まれています。系の内部の運動エネルギーではなく、流量は系が外部との関係で有する運動エネルギーに関係しますが、それは熱力学の分野では、state variablesには含まれていないようです。(明記されていません。)

そこで、他の教員とご相談しました。
結論として、考えている(注目している)量(示強変数も含まれる場合がある)が時間が経過しても一定である(変化しない)ことだと認識しました。

蛇足ながら、上記のmechanical systemsに記されているように、a mechanical partとして、系内に存在する一分子を考え、その座標が問題になる場合には、分子の位置が変われば定常状態ではありません。でも、化学工学でほとんどの場合、個々の分子の座標は取り扱いません。a mechanical partとして、一分子が入るか入らないかの微小な領域を考えるかどうかについても同じです。ちなみに、mechanical systemsでも、個々の分子やそのサイズのような領域をa mechanical partと考えることはないと思います。また、厳密に分子の個数が1個の単位で変化するかを検討することもありません。厳密には、開放系に含まれる分子の数は、その数のうちのごくわずかの値(おそらく1%未満)が、一般的に「定常状態」と考えられている状態であっても、時間的に変化するはずです。濃度揺らぎ、ランダムなブラウン運動によるものです。そのような場合でも、当然ながら、巨視的に、分子の数(物質量)がほぼ一定であれば、定常状態とみなします。

現代化学工学の(1.25a)式、すなわち
dnj/dt =Fj,1 ─ Fj,2 + Gj (1.25a)
に戻ると、扱っている(注目している)変数は、
ni、Fj,1、F,2、Gj、t
です。
したがって、(1.25a)式を扱って、「定常状態」と言う場合には、暗黙のうちに、
ni、Fj,1、F,2、Gjの全てが、時間tの増加(時間の経過)によらず、一定であることを意味します。
(定常状態という場合、時間はそれ自体が変化することが当然なので除外します。)

2025/6/9追記:

上記の結論は間違っていないと思われます。ただし、注意が必要なので、そのことについて記します。

https://en.wikipedia.org/wiki/Steady_state
には冒頭に以下の「」内が記されています。


In systems theory, a system or a process is in a steady state if the variables (called state variables) which define the behavior of the system or the process are unchanging in time.


気持ち良いくらいに明確です。
意訳すると、

(考えている)系または過程が定常状態にあるというのは、その系または過程の挙動を定義する変数("状態変数"と呼ばれる)が、時間経過しても変化しないことを意味する。

ただし、「the variables which define the behavior of the system or the process」が何なのかは明記されていません。やはり、注目している変数に限定されることに注意が必要です。

https://en.wikipedia.org/wiki/Steady_state_(chemistry)
にも同様のことが書かれています。つまり、注目している変数が時間によらず一定であるということです。

引用は以下の「」内です。


In chemistry, a steady state is a situation in which all state variables are constant in spite of ongoing processes that strive to change them. For an entire system to be at steady state, i.e. for all state variables of a system to be constant, there must be a flow through the system (compare mass balance).



The term steady state is also used to describe a situation where some, but not all, of the state variables of a system are constant.


私からの学生への質問、すなわち「定常状態の意味は?」は不明快だったということです。
私は何が時間によらず変わらないのかを含めて問いたかったのですが、その時間によらず変化しないものは、「注目している変数」だったのです。

なお、「constant」には注意が必要です。
英辞郎
のページ:
https://eow.alc.co.jp/search?q=constant
にも例がありますが、
必ずしも時間によらず一定という意味ではなく、場所によらず一定という意味の場合もあります。
たとえば、
constant along each streamline

それぞれの流線にそって一定である
という意味だと記されています。

現代化学工学(橋本健治・荻野文丸編)の誤り? - 鈴木

2022/01/05 (Wed) 18:55:27

2001年4月20日初版で2007年3月30日第7刷のものですが、章末問題、第一章のリサイクル流れの問題の答えがどうやら間違っています。
答えは、単通反応率を0.209とした場合の値のようです。
問題文には単通反応率が0.2009だと記されていますが。

また、
4.5.3 吸着速度

b. 境膜における拡散

(4.141)式などに現れる
kf
すなわち、
境膜における物質移動係数の単位の説明が不十分です。
単位として
m/s
としか記されていませんが、これは
m^3-溶液/(m^2-吸着剤外表面積・s)
です。

教科書の検討 - 鈴木

2025/07/09 (Wed) 11:30:22

今年度まで、そして今年度も、分離工学と反応工学の教科書として、
現代化学工学(橋本健治・荻野文丸編、産業図書)
もしくはその増補版を用いて来ました。

これは移動現象論の教科書も兼ねています。

移動現象論を担当する先生から、教科書を
標準化学工学(松本道明ら著、化学同人)
に変えることが提案されました。

反応工学に関することについては、
現代化学工学では複合反応と非等温反応器の設計方法について記されていますが、標準化学工学には記されていません。
標準化学工学では、固体触媒反応について、球形粒子を仮定し、粒子内拡散と反応を含めて詳細に導出から成立する式まで詳しく書かれています。そのような記述は現代化学工学にはありません。また、標準化学工学には、微生物反応工学という章があり、そこで現代化学工学には記されていない内容が記されています。

分離工学の分野については、
標準化学工学では、分離係数の定義などの分離の基礎に加え、蒸留、ガス吸収、吸着、膜分離を取り扱っていますが、現代化学工学に比べて内容が貧弱です。
現代化学工学では一方拡散、抽出、乾燥、晶析についても記されています。
ただし、私が担当している分離工学では、乾燥、晶析および膜分離についてはほとんど扱っていません。

また、説明の方法の傾向も異なります。
現代化学工学では、原理・原則を記し、個々の場合について、条件を当てはめて理由をつけて、結果が導かれる傾向があります。一方、標準化学工学では、場合によっては原理・原則は記されておらず、個々の場合について、理由(導出)なしに、突然、天から降ってきたかのように、結果が記されている場合があります。たとえば、標準化学工学の「4.2.4 ガス吸収」の「(2)吸収塔の設計」では、液中の目的成分のモル分率をx、気体中の目的成分のモル分率をyとしてそれらの平衡関係が比例(直線関係)になる場合にどのようになるかの結果が、導出方法の説明もなしにいきなり記されています。せめて、101ページの(2.106)式と類似と記せば良いのにと思ってしまいます。

かと言って、標準化学工学の方が説明(式の導出)が不足しているかというと、そうではありません。先述したように、標準化学工学では、固体触媒反応について、粒子内拡散と反応速度を含めて、理論的に、二階線形常微分方程式を解く必要があると述べています。

どうやら、得意分野(重点的に記している分野)が異なるようです。

みなさんはどちらの教科書で学びたいですか?

物質・生命化学科に入学する学生に生物系の希望者が3割以上居るかもしれないことを考えると、標準化学工学の方が適しているのかもしれませんね。

教科書を変更するなら、講義内容を変更する必要があります。大変だなぁ。

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